「繕うワザを磨く 金継ぎ上達レッスン」をお読みいただいた皆様へ

繕うワザを磨く 金継ぎ上達レッスン(メイツ出版 2017年9月23日発売)の監修をさせていただきました。

今現在の、私に出来る限りの力を尽くしたつもりでいるのですが、それでも書籍という形式上、伝えきれない点やわかりづらい箇所などがあるかと思います。
そこを、このfollow up page で補っていこうと思います。
先ずは本書Q&Aページでも予告しましたが、私が使っている道具や材料の説明と購入先から少しずつですが紹介していきます。
※道具や材料の説明と購入先は「番外:初心者さんとの質疑応答」の後に記載しています

 

Instagramでのご質問にお答えします。2020年12月15日

@toshiさんからのご質問
「内側の筆が届きにくいところなどはどう処理されてるんでしょうか」

手が入るか入らないかによって、やり方は大きく変わります。
今回の花器はギリギリ手が入りますので、入る場合の説明をします。

まず大まかに言うと。。。

・筆の柄を短く切る。(手が入らない場合は、筆の柄を継ぎ足して長くする)
・ヘッドライトを頭につける。
・錆付けは指でやる(被れる方は必ずゴム手袋を使うこと)
・バラバラな割れの場合は、2パーツか3パーツになるまで予め接着と下塗りまで済ませておく。
 ↑これが一番大事です
・内側は、覗いて見えるところまで銀で仕上げる。


この花器は内側が大きく破損していて、破片を繋げただけでは直径70mm程のクレーター状にえぐられた状態でした。
他にも何箇所も大きな欠損部がありました。
外側は接着した後で欠損箇所を埋められますが、内側はそうは行きません。
組み立ててしまった後では内側の処理が困難なので、予め欠損を埋めて塗りまで済ませたパーツにしておくことが肝心です。
この花器は、大きく3パーツになるようブロック分けをしています。

組み立てた後は、指で錆を塗りつけ、固まったら耐水ペーパーで水研ぎをする。
ある程度平になったら、柄を切った太めの筆に希釈した生漆をたっぷり含ませて、接着したラインと錆に漆を染み込ませる。
その後、下塗り中塗りを、ヘッドライトで照らしながらしっかりと塗っていく。


こんな感じです。
美しさと言うより、水漏れしないようにしっかりと直すことを優先したやり方かと思います。
ご参考までに。

2020年12月16日 「モノ継ぎ」持永かおり

※漆継ぎを既に経験した方用に、漆を固める期間等の説明は割愛しております。


※番外:初心者さんとの質疑応答

(2019.4.15)

 

全くの初心者さんであるカナダ在住知人のNさんが、「金継ぎ上達レッスン」を見ながら独りで金継ぎに挑戦。その際に出てきた素朴な疑問のいくつかをメールで頂き、お答えしました。きっと多くの方の参考になると思うので許可を得て公開します。


◯質問その1
本にある、一番最初の小さな欠けの繕いは仕上げに金の丸粉を使っていますが、これを金の消粉でするには、次の外焼締ボウルの銀消粉の要領でやればいいですか?
つまり、ツヤのある釉薬がかかった器の小さな欠けの繕いの方法で、最後は金の消粉仕上げにする場合。

■答え
イエス。その通りです。

◯質問その2
錆付を1回で終わらせるのは無理?これは単なる疑問なのですが、慣れたらそれが可能で、時短になるのかな?と思って。

■答え
これは残念ながらNGです。
表面だけが固まって中はブヨブヨ状態になり、そうなると何日経っても固まりません。
急がば回れ。薄く付けてしっかり固めてから重ね付けした方が、断然早く仕上がります。
錆が上手に作れれば1日でしっかりカリッと固まるので、翌日に作業できます。

◯質問その3
直したい器がいくつもある時(この場合小さな欠けの繕い=皆同じ作業)、例えば5個あった場合、5個いっぺんに作業をする、というのでもOK?

■答え
イエス。私は20個とか一気に錆付けしてます。

◯質問その4
キムワイプは、ペーパータオル(キッチンペーパー)でも良い?

■答え
キッチンペーパーというより、ティッシュペーパーで大丈夫。
クリネックスのティッシュが一番毛羽立たないって言われてて、
でも毛羽だって白い粉がついちゃうようだったら、キッチンペーパーの方がいいのかも。
あと、着古したTシャツを小さく切っておくと便利です。

◯質問その5
錆漆、余ったのは2,3日中に使い切る、と本にありますが、使い切れなかった場合は?

■答え
時間が経てば経つほど固まりにくくなっていくので、理想は都度作るのが一番。作りたての錆は、すぐに固まってくれるので。でも、実は冷蔵庫で一週間くらいは持ちます。その際は、色が黒くなったり硬くなったところは使わず、内側の柔らかくてフレッシュな部分のみ使うこと。ごく少量の錆漆の作り方を後日教えます。

◯質問その6
砥草の裏表はどちらを使うのでしょう?あと、どのくらい使えるものなの?

■答え
表面のギザギザした方を使います。
ギザギザがだんだんなくなっていくので、そうなったら使えないです。
カッターナイフでほぼ成形して、仕上げにトクサを使う感じがいいです。(トクサで形を作るのは大変ということ)乾燥したトクサは、一本取り出して水に10分くらい浸してから使う。この形のまま、表側がヤスリになってます。

◯質問その7
紙の上で金を蒔く作業をした後、金消粉を回収しようと思っていたのに出来なくて、もったいなかったです。
■答え
つるつるに加工した紙でやれば、回収できます。
カレンダーとかポスター、高級な紙袋のつるつるしてるものを使おう。黒があれば最強です。私は東急ハンズで黒いツルツルした厚紙を買って使ってます。

◯質問その8
周りについた金粉はどうやって拭き取ればいい?

■答え
先ずはそのまま一日放置して、そのあと室(ムロ)に二、三日ほど入れる。そしたら、一度水洗いしてみて。メラニンスポンジで金粉を蒔いたところ以外を軽くこするのも良いです。

◯質問その9
絵漆を美吉野紙で絞って漉す、というのも難しかったです。量が少なすぎた。多く絞ったらラップに包んでとっておいてもいいの?

■答え
イエス。
私はあらかじめラップの上にこした漆を落としてます。
塗る範囲がごく僅かのときは、ガラス板の上に絵漆を少量落として、小さく切った美吉野紙を漆の上にかぶせて、滲む漆を小さな金属のヘラやナイフでしごくようにすくい取って漉してます。

厳寒のカナダで、よく一人で頑張りました!本を読んだだけでここまで出来たんだから、大成功だと思います。後日、日本に一時帰国した際、仕上げをやり直しました。その写真は追ってアップしますね。

漆の購入先

本書で使用した漆の購入先です。

◯生漆(きうるし) →浄法寺漆産業/ http://www.japanjoboji.com/urushi/urushitube.html ネットストア有り/貴重な岩手県浄法寺産漆を少量で販売している。国産の呂色漆もあるが、サラサラしていて厚みが出ないため、慣れない人の修繕の作業には向かない。と私は思います。


◯黒呂色漆(くろろいろうるし)→藤澤漆商店/website なし/☎︎03-3861-3353/国産と中国産があるが、上記と同じく中国産の方が扱いやすいと思います。少量販売がないため、何人かでシェアする事をお勧めします。
◯絵漆(えうるし)→藤澤漆商店/ 同上
◯ガラス用木地呂(きじろ)漆→箕輪漆行/ http://urushiya.ocnk.net/ ネットストア有り/国産と中国産があり、使い勝手に違いはなかったです。
私は国産を使っていますが、中国産でも充分同じ作業ができます。少量販売は現在ありません。
※私は国産の漆で直していますが、決して中国産の漆の品質が悪いという事はありません。
ただ、せっかく日本に漆の木があり、漆を搔く人がいる。そして「モノ継ぎ」を立ち上げるきっかけが
2011年の東日本大震災だったという事もあり、東北の漆を使わせていただいています。
中国産でも日本産でも貴重な木の一滴一滴を掻き集めて、私たちが使えるように処理してくれている事に違いはありません。
無駄にせず、大切に使って欲しいと思います。2017.10



金粉、銀粉の購入先

◯金丸粉(五号粉と三号粉)

◯純金丸粉(5号粉と3号粉)/◯本銀丸粉(5号粉と3号粉)→浅野商店   http://goldsilver.co.jp/est/ ネットストア有り

◯金消粉(四号色or三号色) → 今井金箔 https://www.kinpaku.co.jp/shopping/keshifun/jyunkin.html ネットストア有り/「カサアリ」と「コマカ」があり、カサアリは華やかな仕上がりに、コマカは落ち着いた仕上がりになります。
箔座 http://shop.hakuza.com/category/65 で購入することもあります。
◯本銀消粉→浅野商店
※本書p.20の写真で使用している金粉銀粉は上記の通りです。
消粉と同じ使い方で、平極粉で仕上げることもあります。
モノ継ぎでは、磨き仕上げ(丸粉)、マット仕上げ(消粉or平極粉)と言うように使い分けています。
 
※初めて金継ぎをやる方や慣れていない方は、マット仕上げから試してみてください。
p.38の外焼締ボウル 欠け修理  / p.58の白磁カップ ヒビ修理  /  p.68の織部釉フィンカップ 割れ修理 などをご参照ください。
 
※金継ぎの経験者で丸粉を使用したことのない方は、ぜひ、小さな欠けなどから銀丸粉で挑戦してみてください。(金粉は高価なので…)
p.44の白磁ドレープカップ 欠け修理  /  p.50の白磁輪花小皿 接着を伴う欠け修理 などをご参照ください。2017.10



基本の道具のページの補足 p.16

①ガラス板→本書で使っているものは、要らなくなったフォトフレームのガラス。手を切らないようにエッジを耐水ペーパーでヤスリがけしておくか、マスキングテープでカバーすると良いです。

②ヘラ→写真はプラヘラと呼ばれるものの30㎜幅。ホームセンター、東急ハンズ、画材屋などで手に入ります。先日100円ショップにも売ってました。漆芸屋さんで売られている木のヘラでももちろんいいです。どちらも時々、耐水ペーパー1000番くらいで先端を研ぎ整えるといいです。

③ナイフ各種→左の黄色いのは、オルファ製のアートナイフ。右は医療用のメスで、FEATHERの③という軸に、フェザー替刃メス⑮を装着しています。メスを使うメリットは、刃先を自由に選べること。何種類か試して、⑮に落ち着きました。ネットでも買えますが、私は東急ハンズに行った時に替刃をまとめて購入します。一枚70円。軸は1,000円くらい。器の内側の削り作業の時は、このメスと彫刻刀の丸刀を使います。

④筆→漆用の筆は高いです。そして、当たり前だけどちゃんと手入れをしないとすぐ使えなくなります。私は年間300個以上の器を繕うので、いい筆では回せなくなりました(実は面倒くさがりや)。かと言って安価な筆ではいい線は引けないし、何か良い筆はないものかとアレコレ試して、今はこの2社の筆に落ち着きました。小さな平筆はアシーナ社のラヴィアフラット7000シリーズの#0と#2。線を引く面相筆は、同社ラヴィアスクリプト7300シリーズの#5/0。さらに細い線を引くには蒔絵筆の毛の長いものが一番で、でも実は5,000円くらいするのです…。そこで満を辞して登場するこの面相筆。浅草かなやさんの面相筆長穂。アシーナ社の筆は500円弱ですが、この面相筆はさらに安く、しかも抜群に使いやすいです。本当にありがたいことです。

⑤細いヘラ各種→p32のワンポントアドバイスで紹介しているので割愛。

⑥綿棒→ドラッグストアのベビー用品コーナーで買っています。100円ショップのも試しましたが、けばが立つというか毛が抜けるというか、安かろう悪かろうでした。なので、少々値段は張っても、硬めのしっかりした綿棒をオススメします。やすい綿棒は掃除用に使い、良い綿棒は錆漆を整える時に使うと良いです。

⑦筆置きとヘラ置き→私は陶芸の仕事もしているので焼き物で作りましたが、筆が転がらないならどんなものでも良いです。2㎝×8㎝程度の木の板に釘やビスを5本打ち込めば、筆三本とヘラ一本置けます。無くても作業できますが、以外と無いと不便です。筆が転がって器に漆がついちゃったり、置き場所を探してる時に事故が起きたり。良い仕事をするには良い環境を整えよう、という話なのかも。

⑧キムワイプ(紙ウエス)→けばが立ちにくい。とは言うものの、ゴシゴシすれば毛羽立ちます。普通のティッシュと使い分けています。毛羽立ちや埃が厳禁な、漆を塗る前の拭き取り作業の時は、キムワイプで抑えるように拭き、市販のエアーダスターでプシューッと埃を吹き飛ばしてから、呂色漆や絵漆を塗ります。

⑨ラップフィルム→本には曖昧な書き方をしてありますが、早い話がサランラップとクレラップがオススメです。

⑩ベンジン→既に金継ぎを習ったことのある方や金継ぎの本を読んだことのある方は、あれ?ベンジン?と思うのでは。⑫の灯油もそうなのですが、漆の産地や職人さんによって使うものが違うのです。どれが正解というわけでは無く、自分にとって手に入れやすいもの、使いやすいものを選ぶと良いと思います。
私は、テレピン油、無水エタノール、ベンジン、灯油、樟脳などを使ってみて、最終的に落ち着いたのがベンジンと灯油です。漆を希釈する時に使う灯油は、20mlもあれば一年作業できます。でも、そんな少量の灯油なんて手に入らないと言う方は、テレピン油をオススメします。ベンジンと灯油の両方の機能を兼ね備えていますので。

⑪食用油→ジャムなどの空き瓶に入れ、常に作業場の手元に置いておくと良いです。筆を洗うときだけでは無く、うっかり漆が肌についちゃった時にすぐ対処するためです。

⑫灯油→⑩に書いたので割愛。

⑬⑭⑮は補足の必要がないので割愛

⑯耐水ペーパー→ p.41ワンポイントアドバイスでも説明してあります。錆研ぎに使う場合は、絶対に陶磁器に耐水ペーパーが触れないように気をつけてください。釉薬に細かい傷が付いてしまいます。一度ついた傷は消せません。脅しのようですみません。。。

⑰フィルム研磨材→これを使い出してから、格段に作業効率が上がりました。本書では、塗った漆を研ぐ時にはトレックス・ピンク(1500番相当)。金や銀の丸粉を蒔いて漆で固めた後にバフレックス・グリーン(2000番相当)を使っています。私はネットで100枚入りの箱(5,000円弱)で買ってますが、一枚で器10個は余裕で作業できますので、皆さんは漆芸屋さんのバラ売りに頼るしかないと言うのが悩みです。

※渋谷のヒカリエ8階にあるd47デザイントラベルストアで本書を買っていただいた方には、ピンクとグリーン両方のフィルム研磨剤をオマケで差し上げています。

⑱ダイヤモンドビット→いわゆる電動工具の先っぽに付けるもの。ホームセンターや、100円ショップのものでも良いと思います。私は軸につけて使っていますが、ない場合は、金属用のダイヤモンドヤスリの方が使いやすいです。それもない場合は、耐水ペーパーでも構いません。破片の面取りをする時は、耐水ペーパーの200番〜300番くらいが作業しやすいです。水に濡らして研いだ時は、充分に乾かしてから次の工程に進んでください。

⑲砥草・炭→本書では残念ながら炭を使う場面を紹介できませんでした。大まかに言うと、ざっくりと錆漆の形を整える時には砥草を。錆漆で作った面積が広い場合など、ピタッと完璧にツラを合わせる時は、硬めの炭を使います。ただ、そこまで揃えるのは大変なので、せめて砥草だけでも使ってみてください。耐水ペーパーのように釉薬に傷をつける心配がないので、ザシザシ錆を研げます。意外と近所の住宅をみまわすと、植え込みに砥草を使っていますよ。一本いただけば、一年は作業できます。

⑳マスキングテープ→近年、マスキングテープの用途が変わり格上げされててびっくりします。私は3M社のマスキングテープ、6㎜、10㎜、20㎜を使っています。6㎜は、曲線に沿ってマスキングをする際に重宝します。

㉑ゴム手袋→ホームセンターやドラッグストアで購入できます。パウダーなしのピタッとするタイプがいいです。歯医者さんや看護婦さんが使っているアレです。

ここまで書いて心底思いましたが、やはり一つ一つ揃えるのは相当大変だな、と。初めは金継ぎセットを買うことを進めてはいるものの、これぞオススメ!!と言うセットは残念ながら聞いたことがないので、悩ましいところです。
「モノ継ぎ」仕様の金継ぎ入門セットを作れないものか…冷静に考えてみます。  2017年11月